マルコスくん
2000年春、フィリピンパブ・オーナーの友人に連れられて行ったフィリピンパブの新店は美人揃いが評判を呼び繁盛した。夏になると平日でもお店のオープン前から行列が出来るほど賑わった。
お店には並んで待つことを覚悟して行くワケだが、ただボーとして待つのも退屈だから、お客同士でタレントの噂話をして待ち時間を過ごす。そして、お店に行けばいつもいるおしゃべり中年オヤジがいた。
そいつとは待ち時間のとき何度か話をして、ある日お店に入って合い席した。そいつが指名したタレントが席に来るや「ハーイ、マルコス」というではないか。そういえば顔がフィリピンのマルコス元大統領にそっくりだった。
後でお店の彼女に聞いたところタレントの間では「マルコスくん」といニックネームで人気者だった。マルコスくんとは携帯電話でお店の待ち時間情報を交換しあう仲になり、時間が合えば待ち合わせをして一緒にお店へ行った。
当時のマルコスくんは数年前フィリピンパブにハマって奥さんと離婚、勤めていた会社も辞めて運送会社でトラックの運転手をしていた。
「いいカモだよなぁ」マルコスくんの口癖だった。離婚をして自覚はしているけれどついついフィリピンパブのタレントに入れ込んでしまうのだ。そんなマルコスくんとは興行ビザの廃止でお店が閉店、それっきりになった。
ところが一昨年暮れの忘年会で帰りに代行運転を呼んだところ、迎えに来たドライバーがマルコスくんだった。お互い顔を見合わせびっくり。マルコスくんは募る話があるというので某フィリピンパブで会うことになった。
興行ビザの廃止でフィリピンパブは激減した。生き残ったお店には結婚ビザをもつ通称アルバイトのオバサンピーナばかりになった。マルコスくんは「仕方ないからオバサンだけのフィリピンパブへ通った」そう語り始めた。
それから昔のマルコスくんに戻ってオバサンピーナの口説き方を機関銃のようにしゃべった。そして、リーマンショックの不況で勤めていた運送会社が倒産、代行運転のアルバイトをした。
しかしそれだけでは食っていけないので某オバサンピーナを口説き落としてアパートに転がり込み、炊事、洗濯他何でもするヒモ生活をしているという。
「カモからヒモですよ」
満足そうな笑みを浮かべたマルコスくんだった。
written by bibbly