太った中年

profile

photo

blog

links

bbs

columns



ミチコデラックス

フィリピンパブのオーナーだった友人の代理でたまたまフィリピンへ初渡航した。友人の用事は朝一番で終わり、ホテル1Fのレストランで朝食後出会った老人の教訓を聞いてから暇を持て余した。実質1泊のフィリピン旅行なれど夜寝るまで何をしていいのやら。

出発前、友人から「ホテルから出歩くな」と注意されガイドブックを手渡される。フィリピンが物騒な国であることはホテル入口の警備員がピストルを携えていることで感じ取った。

それでも昼食はホテル近くの日本食レストランまで歩いてそこでラーメンを食べた。なにしろそのときはフィリピンに興味はなく、タガログ語だってまったく知らない。オーダーするのも無言でメニューを指差したほどだ。昼食を終え無事ホテルに戻り、部屋でボーとしようとエレベーターに乗った。

するとドアが閉まる直前、相撲取りのような巨漢の女がエレベーターに乗り込んだ。そいつの顔を見れば今で言うフィリピン版黒いマツコデラックス。服装はドレス姿だが、どう見てもオカマだ。しかも部屋のボタンを押さないから同じ階に宿泊しているようだ。エレベーター内は緊迫した空気が流れた。

エレベーターのドアが開いて部屋に戻ろうとすると巨漢のオカマがついてくるではないか、背筋に冷や汗を感じなら部屋に入ろうとしたら巨漢のオカマが声を掛けてきた。しかも流暢な日本語で。

「少し時間ください 話を聞いてください」

ああ、困った。物盗りなら相撲取りのオカマに勝てるワケがない。物乞いだって気分を害する。そのまま一緒に部屋に入ってレイプされるかもしれない。しかし、暇だ。オカマの話も聞いてみたい。そこで「シャワーを浴びたい、終わったらこちらから連絡する」そう言ってオカマのルームナンバーを聞いた。

オカマは向かいの部屋に宿泊していた。部屋に入ってシャワーを浴び考えた。
結局、誘惑には勝てずオカマの部屋にコールした。部屋の来たオカマはミチコをいう名だった。ミチコはまず自身の半生を語り始めた。

ミチコは物心ついたときから同性愛者の自覚があり女の子ではなくいつも男の子に関心があった。貧しい家庭に生まれ育ったミチコは12歳のとき養子縁組で日本に来た。しかし、実際は父親によって人身売買で日本人のホモ男に売り飛ばされたのだ。運命とは言え、かわいそうなミチコ。

ミチコを最初に買ったのは広島のホモ男だった。15歳まで広島のホモ男に毎晩弄ばれた。次にミチコを買ったのは驚いたことに地元静岡県浜松市にある某有名企業の社長だった。ミチコはそいつが経営するゲイバーで5年間働いた。そして20歳になったときゲイバーで知り合ったフィリピン人の恋人と共にフィリピンへ帰り一緒にゲイバーをオープンした。

そのゲイバーを10年間経営して恋人と別れたときに閉店した。恋人の浮気が原因だ。かわいそうなミチコ。そしてミチコはマニラのナイトパブやディスコでパーティーを企画するプランナーとして独立。やるじゃないか、ミチコ。

現地の言葉でオカマのことをバクラという。ミチコに教えてもらった最初のタガログ語だ。当時はバケモノバクラのミチコ、今ならミチコデラックス。

さて、ミチコが聞いてほしいという話はパーティー企画の仕事のことだった。宿泊したホテルの最上階がディスコで今夜フィリピン陸軍の慰安パーティーがあるという。ミチコがその企画を請け負った。やるじゃないか、ミチコ。

慰安パーティーでバクラ・コンテストを企画した。ミチコの恋人がその審査員をする予定だったけど前夜、喧嘩をして出て行ってしまった。恋人が部屋を出てい行くと入れ違いで向かいの部屋に入った日本人がいた。そこでミチコは、恋人の代わりにバクラ・コンテストの審査員をしてほしいというのだ。

パーティーのオープニング企画でバクラ・コンテストの優勝者も決まっている。最初に日本人の審査員を紹介、優勝者に景品を渡すだけでいいという。

もちろん快諾して一旦ミチコと別れ、ベットの上で未知なる体験を想像した。

約束の時間になるとミチコが部屋のドアをノック。そして一緒にエレベーターで最上階に向かう。数時間前のエレベーターとは別の空気が漂った。

最上階に到着してびっくりしたのはディスコ入口の両脇に機関銃が山積みされていて、若い女性兵士2人がそれを管理していた。ミチコは女性兵士にタガログ語で挨拶してディスコ入口に手招きした。夢を見ているようだ。

ディスコに入ると陸軍部隊のトップらしき人物を紹介された。ミチコは耳元で「昔の恋人」だとささやいた。そして彼がバクラ・コンテストの優勝者だ。

恐るべきプランニング。ミチコはMCを務め、慰安パーティーはオープニングから異常に盛り上がった。そしてお約束のバクラ・コンテスト優勝者への景品授与。ところがエキサイトしたミチコはハプニングで昔の恋人である優勝者の部隊トップにディープキスをした。おぞましき光景である。

ミチコに挨拶をすることもなく狂気のディスコを抜け出し部屋に戻った。

翌朝まで眠ることができなくてそのまま明け方のフライトで日本に帰国した。

written by bibbly
inserted by FC2 system